黒幕はあがった

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 その夜、計画は実行された。  「嘘だろ、食中毒で倒れるなんて」  「兎に角、大至急救急車に搬送しないと大変な事になる」  看守の西条と南が、私を担架で運びながら慌てふためいている。 私の演技の食中毒を皮切りに、収容所で集団食中毒が蔓延するのを防ごうと言うのだ。 私はプリマドンナ。西条と南を欺く事は赤子の手を捻る程簡単な事だった。 けれどご生憎様、 集団食中毒が蔓延する事も、私達の計画の一部だ。 こうする事で、私達は集団脱獄を完遂させる。然し。  「ちょっと待てよ。病院に搬送したら、逆に拙く無いか?」  西条が疑問を口にする。何を今更戸惑っているのだろうか?  「拙い事? 集団食中毒以外に何がある?」  南は怪訝な顔で訊ね返す。  「うちで食中毒が発生した事が知れ渡ってしまったら、真っ先に衛生管理の面が問題視されるぞ」  ベッドもトイレも食事も同じ部屋で食べものを食べているだから、食中毒にかかる危険は大いにあるだろう。食事だって刑期まで生存可能なカロリーを摂取させる事を目的とした、犬の餌より粗末なものだ。 人権を蹂躙した環境の中にいれば誰でも病気の一つや二つは掛かると言うものだ。
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