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「おい、聞いたかよ。 ブルノでデモだとよ」
「ああ知ってる。 例の自由主義者たちらしいな」
日が落ち、プラハの街は刹那の色も、黒く染められ始めていた。ガス灯には明かりが灯り、 中東欧の夜景が姿を現すのである。
夜間外出禁止令が出ているため、警備に当たる治安委員会は、巡回の人数を増やしている。 古びた偵察用の軽機動車が走り回っていた。
「自由主義ねぇ…… とんと見当がつかないんだが」
「要するに、酒がいつでも飲めるってことじゃないか?」
「そいつはいいな!」
二人の歩哨は、治安委員会より支給される、プラハ造兵廠製の短機関銃を装備している。 コンパクトなピストル弾をフルオートで射撃でき、製造費用が安いため、歩哨たちはほぼ、この銃を装備している。
二人はそんな調子で喋りながら、石畳の坂を下っていく。 しかし、坂の横に並ぶ商店街の酒場が、いまだに灯りをつけて、営業していた。
「おい、これは」
「全く…… しゃあない閉めさせるか」
二人は、ピアノの旋律が漏れ聞こえるドアを押した。
「おい! 夜間外出禁止令が出ているぞ!」
先に入った方が、短機関銃を店内に向けて叫んだ。
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