0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
この事態を収拾できる人物は一人しかいない。それこそ海水浴に来た四人組の最後の一人、西園綾香さんなのだが――いまのところそれをしようという気配すらない。
いつもならこのあたりで「ちょっと、落ち着いて!」などとかわいらしい声が上がるところなのだが、今回はなぜ仲裁をしないのだろうか。
ふと西園さんのことが気になった俺は、彼女の姿が見えないことに気が付いた。つい先ほどまで一緒にいたはずなので、はぐれてからそれほど時間が経っていないはずだ。
「お、おい二人とも」
「ああ、なんだ!? 俺はこのカマキリの複眼をふっとばさないと――」
「いまこの脳筋男の再教育に忙しいのですが!」
「――遮るなカマキリ!!」
やはり俺には手が負えないが、さすがに西園のことを言えば収まるはずだ。
「西園さんがいない」
「ッ! ほんとか」
効果はてき面で、新井は分かりやすいほど狼狽して、岸谷も押し黙り視線が泳ぎだした。それほど遠くにはいないだろうという予想を話すと、二人ともどこにそんな体力があったのか、とてつもない速さでもと来た道を走っていく。このまま見ていても仕方がないので、二人の後を追って俺も走る羽目になった。
結果から言うと、西園さんとはすぐに合流できた。
俺の予想通りそれほど離れていなかったということもあったし、彼女の自身もこちらに向かっていたのが大きかった。俺たちの姿を見つけた西園があげた声を聞いたときは、なんとか迷子を出さずにすんだと安心したものだ。
「おい、どこいってたんだよ。心配したんだからな」
「......」
真っ先に西園さんへ駆け寄る新井を見て、岸谷は悔しそうに顔を歪めている。そういう俺も、どことなく居心地の悪い思いを捨てきれない。
端的に言えば西園さんと岸谷は恋人同士であり、こうして見せつけられるとあまりいい気分ではないのだ。
「ごめんなさい。ちょっとおばあさんと話し込んじゃって、気がついたらみんないないし、本当に焦ったよ」
「ああ、そういえばさっき誰かいましたね」
「そうだ、おばあさんから面白い話を聞いたんだけど――」
西園さんが聞いてきたのは、ここからすこし歩いたところに大きな洞窟があるということだった。俺は嫌な感じがしていたが、三対一でその洞窟を見に行くことになってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!