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すぐに着くという話だったが、実際には二十分ほどかけて洞窟の入り口に辿り着いた。断崖の側面に空いた穴らしきものがあるのだが、下のほうは海水につかっている。
「引き潮の時にはここらも砂浜になるんでしょうが、いまは駄目なようですな」
「でも、これぐらいの深さならいけそうだぜ?」
新井の言う通り、壁際はくるぶし程度の深さしかない。
じゃぶじゃぶと歩いていく新井に対抗するように岸谷も入っていってしまう。
「森田君はいかないの?」
「え、あ~どうしよっか」
俺の迷いを見透かしたように、西園さんが話しかけてきた。
普段は真っ白な彼女の肌は、日焼けのせいか少しだけ赤くなっている。水着を着ているので露出が多く、俺の目には毒でしかない。たとえばひとまとめに結ってある髪の下、うなじが見えていたり。胸元の谷間やすらりと伸びた足だったり。こうなると普段は何とも思わない唇でさえ、どこか煽情的な雰囲気を持っているような気がする。
こんなことを考えていたらそのうち股間が硬くなってしまうだろうから、なんとか思考を別のことに移す。
「そういえば、この間の森田君は変だったよね」
「そ、そうだっけ?」
「そうだよ。だって、突然『おめでとう』だなんて言ってくるんだもん。それに、今だってなんかよそよそしいし」
余所余所しいのは仕方がない。まさかこんなところで友人の彼女に発情するなんてことが起きれば、俺はこの先のキャンパスライフを肩身の狭い思いをしなくてはならなくなるのだ。
「ありがとうって言ったのは、西園さんに彼氏ができって聞いたからだよ」
「……え、私は彼氏なんていないよ?」
「え!?」
「そんな適当なことを言ったのは誰?」
西園さんと付き合うことになったと俺に伝えてきたのは、新井その人のだった。その時は岸谷と一緒に驚いたものだが、彼が嘘をついたということだろうか。たとえ嘘だとしても、それを西園さんに伝えててしまっていいのか。
「おーい二人とも、早くこっちにこいよ」
「うう、旅館に戻ったらその話詳しく聞かせてもらうからね」
俺の思考を遮ったのは新井の呼びかけだった。心臓が飛び出るかと思うほど驚いたが、おかげで時間に余裕ができた。
新井の言っていたことが嘘なのか、それとも西園さんが勘違いをしているのか。そのあたりを見極めるまで迂闊なことは言えそうにない。
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