本編

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「なあ新井。道も広いし、別に一列でもいいんじゃないか?」 「お、そうだな。よっと」  俺の思惑にはまったく気が付く様子を見せず、嬉しそうに西沢さんのとなりに陣取る新井。その後ろに俺が付くと、西沢さんの太ももがよく見えた。それほど太くもなく、細すぎもしない。なにより濡れた水着がぴったりと張り付いたお尻は、鼻血が出そうなほど性的魅力がある。 「……す」 「え、なにか言ったか?」 「……あ、小生ですか? 独り言なので気にしないでください。大したことではないんです」  洞窟の中は暗いので表情までは分からないが、浮かれていた俺を正気に戻す程度にはその様子は不気味だった。  洞窟の中に入ったあたりから岸谷がおかしい。いや、大元を辿ればこの旅行についてくると彼が言い出したこと自体が不自然だ。  噛み合わない新井と西園さんの言っていることに、岸谷のおかしな様子。いったいどうなっているというのだろうか。こんな状態で洞窟の探検なんて、本来ならするべきじゃない。  そうは思いつつも、それを言い出すだけの勇気が俺にはなかった。 「思ったよりも広い洞窟だな、西園。なんかやべえお宝でもあったりして。うししっ」 「うん、そうだね。やっぱりあのおばあちゃんの話を聞いておいて正解だったよ。みんなとの思い出にもなるし、こんなところなかなか来られないから」 「そういや結局その『おばあさん』ってのとは他にどんな話をしてたんだ?」 「ん? この洞窟のことくらいだけど……」  相変わらず会話をしているのは前の二人だけで、岸谷は独り言が続いていた。  反対側まで突き抜けているのか、風の通る音のようなものが鳴ることが時折ある。それ以外は俺たちが歩く音や会話の反響などが聞こえるだけで、基本的には物静かだ。  道は蛇行しながら奥へとつながっていて、容易に先が見渡せないというのが余計に俺を不安にさせている。  微妙に悪い足場を進んでいったところ、十分ほどでようやく分岐が見つかった。これほど大きな洞窟なのに、きれいに同じ大きさの二本の道に分かれていて、どちらが本筋ということはなさそうだ。 「これってどっちに行った方がいいんだ?」 「スマホの充電のこともあるし、片方を見に行って行き止まりだから帰る、みたいなことはできそうにないぞ。これ以上進むならどっちかだ」
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