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コウモリはおろかフナ虫さえ見ない洞窟の中は、俺たち以外に生きているものの気配がない――が、それが余計に不安を掻き立てていた。
俺としてはここで帰るという選択肢を取りたかったけれど、それができそうにないのでせめてというつもりで提案する。
「どっちかを見てきて、行き止まりならそれで終わりっていうのはどうだろう。もちろん明かりが確保できそうにないならその場で引き返す」
ここまで条件を重ねれば、適当なタイミングでここから出ることが出来るはずだ。
ただでさえ人間関係を見直さなきゃいけないかもしれないというのに、こんなところで探検ごっこをしている暇なんてない。
「いや、俺にすっげーいい考えがある」
「なんだ?」
「二手に分かれりゃいいんだよ。俺と西園、森田と岸谷でそれぞれの道を行って、行き止まりなら引き返して、電池が切れそうでも引き返す。入り口で待ち合わせをすりゃあすれ違いの心配もない」
「わあ、それはいいね。これならもう片方のお話も聞けて一石二鳥だよ」
「まあ……そうだけど」
「なんだ、なんか文句あんのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが。うーん……岸谷はどう思う?」
「え、ああ。それでいい」
「よし、決まりだな!」
思わぬ裏切りによって俺の目論みは絶たれてしまった。
いや、しかし。これならこれで、手早く変えることができるというものだ。
むしろ気にすべきことは、西園さんがこのペアに文句を言わないということだろう。あからさまに俺たちを遠ざけようとしているにも関わらず、それに異論がでないということは――そういうことなんだろうか。
もしかしたら、自分が襲われるということを一切考えていないのかもしれない。が、そうなると話は振出しに戻ってしまう。
「じゃ、俺たちはもう行くから」
「ばいばーい」
陽気に歩き出す新井と西園さん。ばしゃばしゃと水を切る音に紛れて、新井が口ずさむ安っぽい流行曲が耳に入った。
どこか悶々とした思いを抱えながらも、こうなっては後ろ姿を見送るほかにはない。
「それじゃ、行きますか」
「そう……ですね」
へたくそな鼻歌が聞こえなくなってから、俺たちはようやく前に進みだした。
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