1.それなりに廻る世界

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風が彼の黒すぎる髪をすくいあげた。さらさらと小さな振り幅で揺れている。 前髪が邪魔はしているものの、きっと彼はいつもの生気のない瞳をしている。ちくんと胸が痛んだ。 彼は太陽を仰いでいる。まるで光合成をするかのように。本当に不思議な人。 「ねえ」 「ん?」 「どうしてここにいるか聞いてもいい?」 「じゃあ」と彼は今日初めて私に振り返った。陽の光が嫌に眩しい。 「君がどうしてここにいるのかも知りたい」 きゅっと口元は結ばれ、どこかしら瞳に憂いが宿っている。 果たして聞いて良かったことなのか。 踏み込んで良いのか悪いのかも分からない領域。 けれども、踏み出さなければ、何も始まらないというもの。 私は風に操られ、視界を遮ってくる髪を耳にかけた。そうして。
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