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風が彼の黒すぎる髪をすくいあげた。さらさらと小さな振り幅で揺れている。
前髪が邪魔はしているものの、きっと彼はいつもの生気のない瞳をしている。ちくんと胸が痛んだ。
彼は太陽を仰いでいる。まるで光合成をするかのように。本当に不思議な人。
「ねえ」
「ん?」
「どうしてここにいるか聞いてもいい?」
「じゃあ」と彼は今日初めて私に振り返った。陽の光が嫌に眩しい。
「君がどうしてここにいるのかも知りたい」
きゅっと口元は結ばれ、どこかしら瞳に憂いが宿っている。
果たして聞いて良かったことなのか。
踏み込んで良いのか悪いのかも分からない領域。
けれども、踏み出さなければ、何も始まらないというもの。
私は風に操られ、視界を遮ってくる髪を耳にかけた。そうして。
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