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「…ねえ」
問いかけずにはいられない。
「ん?」
「なんでそんなに嬉しそうなの?」
物語とはいえ、死んだ人間の話をしているというのに、彼ときたら無邪気な子供同様に微笑んでいるのだ。
彼は両頬に両手を当ててその吊り上がった口元を確認していた。
感情のコントロールが上手くないのだろうか。
彼はふっと笑う。
「あぁ、ごめん。別に人が死んだのが楽しいから笑っている訳ではなくって」
そこで持っていたペットボトルの水を一口含んだ。
何故このタイミングで飲むのだろう。本当によく分からない人だ。
「無謀だと分かっていて大海原に飛び出したイカロスがなんかいいなって思って」
彼はそうやって不自然なほどの笑顔を取り繕った。私にはそう見えた。
貰ったジュースを開けて、口に含んで味を確かめる。
りんご味。少し酸味がききすぎている。
しばらく沈黙が続いたので、もしかしたら彼は、私が何か問いかけるのを待っているのかと思い、口を開きかけたその時、また彼が話し始めた。
「俺が、なんでここに来てるか教えてあげる」
「…うん」
飲み口に口をつけながら返事をしたので、こもった声になった。
彼は少し息をのみ、声を発すると思いきや躊躇って軽い咳をする。
それを何回か繰り返した後に息をつき、
「死ぬことを考えてた」
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