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何故だろうか。その笑顔を見ているだけで、汰一の心は満たされこれ以上ない喜びが込み上げてきた。
「大倉です」
「へっ?」
「私は、大倉弥生(おおくら やよい)と申します」
皺だらけの顔をくしゃりと歪めて笑い、頭を深く下げて老婦に倣い、慌てて汰一も下げた。
顔を上げて互いの顔を改めてまじまじと見つめ合って、ふふっと笑い合う。
胸の奥から泣きたくなるくらいの懐かしさがこみ上げ、汰一は深く長い深呼吸をし、老婦に手を伸ばした。
――正確には、老婦が持つスーパーの買い物袋へと。何が入っているのかはわからないが明らかに小柄な彼女が持つには重いものなのだと、その持ち方で気付いていた。
「持ちます。そんで、家まで送ります」
「え、いいのよ。お友達が待っているでしょう?」
「いいんです。友達はもう先に行っちゃったし、お手伝いがしたいんです」
もう少し――話がしたい。
お願いします、と勢いよく頭を下げた汰一を、年齢なりに深く皺が刻まれた手で口を覆い驚きを隠せないでいる老婦はふるりと震えるようにかぶりを振った。
「じゃ、じゃあ、家はすぐそこなのだけどお願いしてもいいかしら。だから、頭を上げてちょうだい」と答えて。
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