13人が本棚に入れています
本棚に追加
約束通り、汰一は老婦を家まで送り届けると頭を下げて背を向けた。
遠くなっていく背中に、老婦は思わず手を伸ばした。が、視界に映るのは皺くちゃな手。こんな若い少年が、何故――。
ただのお人好しだったとしても、度が過ぎている気がする。
「あの、汰一……くん」
「はい?」
「ありがとう。助かったわ」
それでも、まっすぐな瞳で感謝の気持ちを伝えてくる少年に、同じ気持ちを返したかった。
嬉しかったのだと。
「こちらこそ。一緒に歩けて嬉しかった。またね、弥生さん」
「……ええ」
後ろ向きに歩き出した汰一は笑顔のまま、小さく遠くなるまでずっと手を振り続けた。
老婦もまた、その姿が瞳に映らなくなるまでずっと見つめていた。
.
最初のコメントを投稿しよう!