第一章 【迷夢】

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 約束通り、汰一は老婦を家まで送り届けると頭を下げて背を向けた。  遠くなっていく背中に、老婦は思わず手を伸ばした。が、視界に映るのは皺くちゃな手。こんな若い少年が、何故――。  ただのお人好しだったとしても、度が過ぎている気がする。 「あの、汰一……くん」 「はい?」 「ありがとう。助かったわ」  それでも、まっすぐな瞳で感謝の気持ちを伝えてくる少年に、同じ気持ちを返したかった。 嬉しかったのだと。 「こちらこそ。一緒に歩けて嬉しかった。またね、弥生さん」 「……ええ」  後ろ向きに歩き出した汰一は笑顔のまま、小さく遠くなるまでずっと手を振り続けた。  老婦もまた、その姿が瞳に映らなくなるまでずっと見つめていた。 .
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