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ぐんっと数センチほど小さな彰の胸倉を掴んで、引き寄せる。「ぐえっ」と彰が小さく呻いたが、汰一は聞こえているのかいないのか、爛々と輝く瞳で遠くを見つめている。
「すげえよ、あのばーちゃん! あの感覚は初めてだった!」
「寂しいやつ?」
「うん、一緒に居たら全然感じなかったよ! すごい!」
「ふうん……」
どうにも反応の薄い幼馴染に対し、汰一は焦れたように数度足を踏みならしてぐいっと顔を近付けた。
「反応薄すぎ!!」
「……うるっせぇ」
「え?」
「あと苦しいんだよ、っばか力!!」
ごわわ~ん。
カラオケの狭い部屋に鈍い音が響き渡った。頭突きをして汰一の腕から逃れた彰だったが、自身へのダメージも相当なものらしく、少しふらつきつつもどうにか足を踏ん張った。
その際に歯も食いしばったため、咥えていた飴の棒が見事に折れたが、気にせず口に含んでいる。
「お前よ、俺のことなんだと思ってんのよ」
「いてて……ええ? え、と……飴好きの面倒見のいい幼馴染」
「だいたい当たり」
器用に棒だけを吐き捨てると、ガリリ……と小さくなった飴を噛み砕いていく。その表情は、能面のように冷ややかであった。
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