第一章 【迷夢】

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 イントロと、画面に映るその文字を確認した瞬間、彰の表情はがらりと変わった。彼の大好きな、ロックバンドの曲。  一昔前にミリオンセラーにもなったそれは、あまり音楽に興味のない汰一でも聴いたことがあるくらいに有名だった。  だから、自分の歌声に酔いしれる彰の機嫌を取るためにマラカスとタンバリンの二刀流でテンションを上げていくのもお手の物。時折合いの手を入れながら煽ってやれば、ボーカルの動きの真似をして完全にトランス状態に陥っている。  いつもクールで冷静な彰だけど、カラオケの時だけは何故か箍が外れて別人のようになってしまう。だから、いつも汰一としか行かないのだ、と以前ぽつりと呟いていたのを思い出す。  確かに酷い状況だが、寂しい寂しいと頭を抱える汰一にいつも付き合ってくれている幼馴染を思うと、どうってことはない。普段とのギャップに吹き出してしまうし、歌うことはないけれど楽しんでいる。  心から楽しいと思っている。なのに、奥底から這い上がってくる孤独感に胸が痛み、汰一は彰にばれないよう唇を噛みしめた。 .
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