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「うわっ、何その顔ぶっさ!」
第一声で小さく叫ばれ、自覚はあったものの改めて言われるとべっこりへこんだ。
項垂れた汰一の背をバシバシと叩いて彰は必死に取り繕うとしているが、すでに口から放たれた言葉はどう足掻いても無かった事にはならない。
隣の家で、親同志が仲良し――幼馴染にはよくある家庭事情で、互いに知らないことは無いに等しい間柄の彼らは顔を見ただけで気持ちを汲むことができる。
朝一番、玄関を開けた時の表情で何かがあったのだと判っていたのに、ついツッコミを優先してしまった彰はじとりと睨んでくる汰一に誤魔化すようハハッと笑って見せ、飴玉を差し出す。
「……」
制服のズボンに手を突っこんだまま、プイッと顔を背けて汰一はひとりスタスタと歩きだした。
もちろん、彰が差し出した飴玉はそのまま。
残された彰はひっこみのつかない手で暫くその場で離れていく汰一を見つめていたが、弾かれたように駆け出した。
目指すは、無駄に背ばかり伸ばしていった生意気な幼馴染の背中。
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