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瞬間。
「ッてぇなクソババぁ! どこ見てやがんだこの野郎!!」
いかにもチンピラといった風体の男が突然視界に入り込んできた。
おそらくは80歳を越えているであろう老婦の胸倉を掴もうと、男の手が伸びる。
「何をしているんだこの痴れ者がっ……!!」
「ぐっ」
彼女へと伸びた手は寸前で弾かれた。鋭い眼差しとともに、老婦を背に庇う汰一によって。
180cm近い身長の汰一と、彼の顎辺りまでしかないチンピラ。睨み合う彼らの決着はすぐについた。
「お、覚えてろよクソガキっ!」
捨て台詞を吐き、チンピラが逃げていくことで。
背の低い老婦は汰一の背中をまじまじと見上げ、恐怖に震える両手をこすり合わせてひとつ大きく息を吐いた。
「ああ、ありがとう学生さん……」
怖かった、と漏らし老婦は何度も汰一に礼を言った。
が、当の汰一は歩道橋の手すりに身体を預けてズルズルと崩れ落ちていく。老婦は慌ててその背を皺だらけの手で摩り、大丈夫かと問い掛けた。
「ごめんなさい、だい、大丈夫です……ちょっと、怖かったなぁって……」
「え?」
「何事もなくて良かった……殴りかかられでもしたらどうしようもなかったです」
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