第一章 【迷夢】

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 彼女の言わんとする事に気付き慌てて手を離し、両手と首をぶんぶんと振って「そんな事ないです!」と5回程一気にまくしたてた。 「おれ、背、高いから! 逆に貴方を転ばせちゃうと思って! 触りたくないとか嫌だとか、そういうんじゃ!!」 「いいえ、孫にも言われるのよ、今の若い子は嫌がるんだから構うなって。なのに、嬉しくってつい……ごめんなさいね」 「ちが、ほんとに、違うんです、おれ、あの、」 「汰一ー? マジお前何してんの? カラオケ行かねえの?」  老婦の手を握ったり離したり、あわあわと珍妙な動きをしている汰一を、追いかけて来た友人は怪訝な顔をして見つめていた。  無理もない。歩道橋の下で待っていた友人から見れば突然駆け出した後、チンピラのような男の怒声が響いただけで何の動きもなかったのだから。心配して駆けつけてみれば、老婦の手を掴んで何やらやっているだけで。  おろおろと少年達の顔を交互に見つめる老婦を見かね、友人は汰一の手を引いて頭を下げた。 「すんません、ダチが迷惑かけたみたいで」 「いえ、違うのよ、そちらの学生さんは助けてくれたのよ」 「そっすか。でも、今困らせてんのはこいつっぽいんで。引き取ります。すんませんでした。おら、行くぞ汰一」 「あの、喧嘩はしないでね」 .
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