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心配だ、と顔に書いてみえるほど眉尻を下げてふたりを見つめる老婦に、友人はにへらとゆるい笑みを送った。
「しません、しません。大丈夫です」
「そう……あの、気をつけてね」
「はい。あざっす」
汰一は何を口にするでもなく俯いたまま唇を噛み締めている。だが、友人はそれを特に気にした様子もなくずるずると長身の汰一を引きずっていく。
「おら、いつまでも呆けてないで自分で降りろよ」
汰一を階段まで引きずって一段目を下りる際、未だ心配そうに見つめてくる老婦に会釈すると、友人は先に駆け下りていく。
一段ずつ離れていく友人のつむじをぼんやりとした眼で眺め、一度だけ老婦を振り向いた。
「ありがとう」と、やわらかく微笑みひらひらと手を振っている老婦に、汰一の胸はぎゅうっと締め付けられるような痛んだ。振り払うようにかぶりを振り、慌てて頭を下げてそそくさと友人を追っていく。
――なんなんだ、この痛みは。
原因不明のそれは汰一を混乱させるだけで当然何も示してはくれない。
汰一は痛む胸を押さえ、もう振り向きはせずに階段を駆け下りた。
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