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◇◆◇◆◇
「で? 居たのかよ」
「は?」
「は? じゃねーよ、お前『逢いたかった』つって走り出したじゃねぇか。追いかけたらばーさんの手ぇ握ってっし。まさかばーさんに逢いたかった訳でもねぇだろ」
「逢いたかった……?」
「え、覚えてねーの? 頭大丈夫?」
コンコン、と友人に頭をノックされるも、汰一はただ黙って数刻前の自分を思い返した。
幼い頃から抱いてきた孤独感。こんな風に心配してくれる友人が居ても、好きだと囁いてくれる恋人ができても、決して薄らぐ事のなかったそれ。
だが、歩道橋を歩く彼女を見て、欠けていた心のピースがカチリと嵌ったのを確かに感じた。
『ありがとう』と穏やかな表情で、手を振る老婦人。
汰一は密かに確信した。
――おれは彼女に出逢う為に生きてきたのだ、と。
「っ、おい、汰一!?」
「先に行ってて!」
自分の中の何がそんなに強く訴えかけているのかはわからないけれど、今ここでこのまま別れてしまってはいけないと、それだけは確信できる。
汰一は来た道を戻り、老婦の元へ駆け出した。
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