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「おっ……、あの!」
おばあちゃん!と呼び止めるのは何故か躊躇われて。つい、行き交う人々が振り向く程の大声が出てしまった。
名前も知らないし、けれど確実に呼び止めたい一心で。
「あら、学生さん。どうしたの? 忘れ物でもした?」
「いえ、いえ、あの」
「どうしたの?大丈夫?」
いざ目の前にすると、うまく言葉に出来ない。
伝えたいことは、山ほどあるはずなのに。
色んな言葉が脳内で渦巻き、ぐちゃぐちゃになっていく。
「な、なま、名前! 俺の名前は、曽我部汰一です! 姓名判断的には可もなく不可もなくの中途半端な名前の高校1年生です!」
「は、はあ」
「好きな食べ物はよもぎまんじゅうです!」
「よもぎ? 意外なものが好きなのねぇ」
「中身がさつまいも餡なら言うことなしに幸せです!」
ビシッと敬礼するように右手を眉辺り押し当て言う汰一がよほどおかしかったのか、老婦は吹き出した。
ごめんなさいね、つい……と言いながらクスクス笑い、苦しそうに肩を揺らしている。
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