うんざりする存在

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 暗い押し入れの中で頭をもたげた黒い影を、人とは思わなかった。  人だとしても変に細い……バランスがおかしい。  詰まった排水口みたいなゴボゴボとイヤな音を立てながら、そいつはずりと襖の上を這う。 「……は、うわ……」  いざというとき、体って動かねえのな。  のろかった黒いヤツがあっという間に近づいて、みっともなく立ち尽くしてるオレの足首を掴んだ。  そいつと一緒に体を這い上がってきた、鼻の奥が熱くなるくらいの臭さ。  咄嗟に吐きそうになる。  バランスがおかしい理由に気がついたのはその時だ。  俺を掴んでいるのは右腕だけ。こいつには左腕がない。  押し入れを見ると、押し入れと襖を渡るような格好で白っぽいものが残されていた。  見覚えのあるニット。  片袖が僅かに盛り上がってる。  腕……腐り落ちたんだ……。  そろりと下を見ると、ゴボゴボと音を立てたアイツの虚ろな白い目が、俺を見上げていた。
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