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長谷川に邪魔される筋合いはないが、この玲緒奈様だけには、俺は頭が上がらないほどの借りがある。逆らうことはできない。
ならば、逃げてしまえばいい。
愛の逃避行をしてしまえばいい。
「あっ、ちょっ、待ってください!」
奴らにどんな事情があるのかは知らない。
だけど、それこそ俺と清水さんの知ったこっちゃない。
「清水さんっ」
全力で走りながら、はっ、はっ、と息を切らしながら、俺は隣を走る清水さんに顔を向けた。
「なにっ、赤坂くんっ」
驚くほど清々しい笑顔で、清水さんは走っていた。
なるほど、こうして二人で手を繋いで走るというのも、なかなか楽しいものだ。
どうせ言うなら、楽しい時の方が良い。
「好きですっ、俺と付き合ってくださいっ」
息を切らしながら、舌を噛みそうになりながら、俺はできる限りさらっと、一番大事な言葉を口にした。
「私もっ、ずっと好きだったよっ」
それから、俺達は笑いながら、足が動かなくなるまで走り続けた。
図書館前に戻ると、すっかり日は暮れきっていて、玲緒奈は諦めて家に帰ったようだった。
ざまぁみろ。
「ねぇ、怜人くんって呼んでもいい?」
「くん、付けなくてもいいけど?」
「私が付けたいから付けるの」
「そっか、じゃあ俺はみずみずって呼ぶわ」
「えー、それバカップルっぽい」
「早坂は呼んでるじゃん」
「なら尚更ダメでしょ」
「うん、冗談だよ。瑞穂」
こうして、シスコンでゲーマーの俺にも、無事彼女ができた。
しかし、俺達を待ち受ける受難はまだまだこれから降りかかるということを、俺はなんとなく予期していた。
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