第十二話 DUEL!DUEL!DUEL!

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  *** 再びの〈WIN〉表示を大画面に映し出し、俺は立ち上がり、両拳を腰の横で握り締めた。所謂「押忍」のポーズである。 「っしゃあオラァ!」 思わず大声を出してから、目の前が真っ白になり、フラつきながら椅子に尻を戻した。息を吸うと視界が元に戻り、脳みそに酸素が行き届くのを感じた。どうやら息を吸うのも忘れる程集中していたらしい。いや、これは集中できなかった結果というべきか。 言ってしまえば、俺は最初L@VERを侮っていた。ほんの少しの油断から、〈ソウルブラスト〉の発動後にうっかりスタンを喰らい、〈ソウルブラスト〉効果切れからのバインド、強制タウント、引き寄せ技というタンクお得意ループにハマり、俺も苦し紛れの回復連打で延命を続け、制限時間切れ間際の俺の魔法が偶々スタンを引き当て、しかし時間内にHPを削り切る火力もなく、辛くも判定勝ちという正に泥仕合オブ泥仕合を繰り広げる始末であった。 本当さ、こういうことあるから。安易に俺のこと強いとか言うのやめてくれません。プレッシャーに弱い十代だから。 「くそっ、これはキツイ。泥仕合の果ての負けはキツイ。これが収録された番組なら、編集で確実に俺の戦闘シーンだけカットされるやつじゃないか」 俺は俺で精神的にダメージを受けていたが、広島も広島でまた違うダメージの受け方をしていた。 「くっ、仕方ない約束だ。勝ったお前にはこのL@VERという名の由来を教えてやろう」 そんな約束はしていないが、普通に知りたいなそれ。 「お、確か中学で野口と組んでたバンド名だよな?『L@VER’s』」 早坂が横から答え、広島は苦笑いで頷くのみだった。そこは言わせてやりなよ。 「因みに@なのに特に意味はない。Oよりも@の方がオシャレとか広島が言い出したんだ。中学生ってほんとセンスアレだよな」 野口に黒歴史をバラされ、笑顔の苦さが更に深みを増したところで、周りから多種多様な笑い声が聞こえ、俺は本当に画面の外が見えていなかったことに気が付いた。 カラオケルームの中は、立ち見客が詰め寄る程に満員だったのだ。
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