第十二話 DUEL!DUEL!DUEL!

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俺を含めたいつものメンバー四人に加えて、増えていたのは六人。五人部屋なので席こそ足りないが、全員が歌って踊れるだけのスペースはあったので、十人が入ってもそこまで窮屈そうではなく、このまま次の曲にだっていけそうだ。 気まずい思いをごまかすべく秒でデンモクを入力してマイクを早坂に渡すという強行突破も頭をよぎったが、その追加メンバーの一人、清水瑞穂の表情を見て、それを断念した。 その表情はまるで母のように、「よくできました」と柔らかい肯定を示していた。そんな笑顔を向けられて、逃げの一手は指せないじゃないか。 そして、瑞穂の友達女子を二人挟んだ位置に立っている人物こそ、俺が逃げたい一番の要因。ゲームオタク完全否定派、クラス三大リア充の一人、長谷川裕也がそこに居た。 長谷川と目が合う。逃げちゃダメだ。リア充は逃げる者を本能的に獲物だと認識し、とりあえず殺しに来ると聞く。こういう時は目を逸らさず、ゆっくりと後退るのだ。しかし後ろにはテーブルが。前に出ればリア充の牙が届く射程内。 予想外の展開で思考がパニック状態の俺に、長谷川は両の手の平を見せた。何だ、どういう意図の行動だ。リア充の生態に詳しい早坂先生、教えてください。と、早坂が視界の端に入っているはずなのにその表情が読み取れない時点で気が付いた。 ああ、俺は今思考が加速しているらしい。こんな時でさえ集中するのか。ゲームに没頭している時と同じく、視野が狭まり、音よりも目の前のモニターの動きを優先的に脳内メモリに取り込み、自前のCPUが分析をする。 長谷川は俺に手の平を見せたわけではない。これは俺が長谷川の動きを警戒しているせいで、奴の動きよりも思考が先行してしまったに過ぎない。 長谷川はおもむろに両手を叩き、音を鳴らし始めた。これはリア充特有の威嚇行動なのか。まるで拍手でもしているようだ。
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