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刻々と過ぎ去る時。
観衆は見る間に増え、祭壇の下を埋め尽くしていた。
ホラ貝の厳かな音が鳴り渡り、褌一丁のみを纏った筋骨隆々たる男達が祭壇へ上がる。
まるで土俵のような祭壇に円を描いて男達が腰をおろす。
八雲の真隣には都留丸が悠然と腰を下ろした。
そして祭壇の下
一際輝きを放つ頭皮の下でそっと閉ざされた瞼越しにも垣間見える、禿盛の何人も寄せ付けない勝者の威厳が、場の空気をひやりと湿らせていた。
ホラ貝が二度目の合図を鳴らす。
褌達が、足元に置かれた縄の輪に一斉に手を伸ばす。
彼らの口にしっかりとくわえられた縄の先に揺れる雛鳥型の御神体。
緩い表情を施した御影石が愛らしく揺れる。
これを落とす事は即ち敗北を意味するのだ。
八雲は目を固く閉じ、奥歯を噛み締めた。
八雲の弱点も即ちそこにあったのだ。
三度の飯より、ともすれば流星以上に愛しいやもしれない。
その存在は八雲の中で、もはや神を超えた崇高な存在なのだ。
それ故に彼がそれの付いた縄を口にくわえるなどという行為は、髄まで骨抜きにされるが如く
全身の力を奪ってしまうのである。
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