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「ふんぬっ」
男達が一斉に掛け声を挙げると同時に、御神体が恥じらいに頬を染めるように、仄かな朱色に発光し始める。
御神体に霊気を吹き込む事で、頭皮に聖なる力が宿るのだ。
それに呼応するように、祭壇の下の禿盛の瞳がカッと見開かれた。
八雲は奉りの度に己と戦い続けてきた。
その愛らしさに骨抜きにされ霊気を操れなければ、最速の称号どころか、頭髪一本抜く事は出来ない。
八雲は、御神体を胸に抱き締めたい、あわよくば食したいとまで願う歪な性癖に己を許せないでいたのだ。
それは神への冒涜であり敗北でもあるのだから。
八雲の瞳は涙でかすみ、噛み締めた口元には既に血が滲み出していた。
「ふぉれわっ…ふぉれわ、うぇっふぁいうぃ(俺は…俺は、絶対に)
うぁふぇんっ!(負けんっ!)」
八雲の気合い虚しく、既に次々に都留丸以下、男達の頭皮からはサラサラと毛髪が抜け落ち、祭壇を黒く染めていく。
薄く開いた目の先には、御神体の火照った表情が八雲を悩ましげに見つめていた。
――何故我らの神は、こんなにも罪深い程愛くるしいのだろう
八雲の胸に言い知れない切なさが込み上げる。
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