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そして時間は過ぎ、夕飯の時間になった。
テーブルには、食事の時間にしか姿を現さない院長の江田町子と洋子、子供達が座っている。
院長の町子は、子供達が怪我していても我関せずで、いつも食事だけに集中していた。
子供達の誰もが、町子の声を聞いた事がない。
伸びきったくしゃくしゃの白髪で顔を隠し、過ぎる程痩せている町子を、子供達は想像の中のお化けと重ね、恐怖していた。
そんな楽しげではない食卓のテーブルの上には、健太の嫌いな人参がいっぱい入ったカレーライスが、皿によそわれ載っていた。
健太は洋子の方をチラチラと見ながら、人参をほうばる。
口の中に人参のえぐみが広がった。
健太は目を思いっきり瞑り、嫌いな人参をごくりと飲み込んだ。
残せば洋子からまた殴られる。
健太の頭の中は、その事で一杯だった。
小さい子供達だらけの食卓は、ざわつくことなく、咀嚼音だけが広がる。
そして何事も無く、お通夜のような食事は終了した。
ごちそうさまの習慣のない子供達は、黙ったまま、使っていた食器を各自台所の流し台に持って行く。
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