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ルイ・ジェラールは、母国フランスこそが、世界の料理の全てを司っていることを信じて疑わない。
フランス料理は、美と味、それに「悠久たる時間」をも支配するに相応しい芸術とも呼べるものであると。
だからこそ、今回の対決には負ける訳には行かない。
いや! 負けるはずはないのだという確信めいたものがあった。
「トリュフ、フォアグラ・ソテー、キャビア」
いずれも、元々は海外の食材であったものを、フランスのコース料理が積極的に取り入れ、世界中に紹介したものである。
(日本人の味覚は、諸外国の中でも最も繊細かつ鋭敏と言われている。
……私の考えが間違っていなければ、明日の勝負、勝てる!!)
ルイ・ジェラールは、金色の長髪を撫で付け、ホテルのスイートルームから見下ろせる渋谷・宇田川町を行き交う人の群れに視線を向ける。
(ハンバーガーを頬張る若者、オニギリを片手にスクランブル交差点を渡るビジネスマン……)
単純な味付けだからこそ、素材を活かすからこそ難しい。
だが、明日の料理バトルで彼が仕入れた食材は、日本人の誰もが未だ味わったことのない『海の宝石』とも言える逸品である。
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