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相手がどんな材料を用いようと、いくら奇をてらった調理法を見せようと、ルイにとっては敵ではないはずだった。
『ソフトシェルのオマール海老』それは、幻の食材であり、フレンチの貴公子最大の秘密兵器でもある。
(素材をそのまま味わうという点において、これほどまでのシーフードがあろうか? いや、絶対にない!!)
マルセイユの地中海に沈む陽光が、彼の閉じられたまぶたの奥に蘇る。
貧しい漁師の家庭で育った彼が初めて食べた「ご馳走」は、磯の小魚やエビ、カニ、貝類を煮込んで作ったブイヤベースであった。
潮の香りと、海の生命力を濃縮した味わい。
9歳の時から大人たちに混ざり、定置網を引いて来たルイは、高校を働きながら卒業すると、すぐさまパリの超一流ホテルの厨房に入った。
とにかく「先輩シェフの技術を見て、味わって、そして盗んだ」
……わずか27歳にして、フランスの三ツ星レストランでチーフを任された時、彼の10ある指紋は、フライパンを振り過ぎた為に、ほとんど消えかかっていた。
この手で、フランスの歴代政府高官に、財界のトップに、晩餐のディナーを提供して来たのだ。
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