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「は? オバちゃんて、かずさん?
……やめぇや隆、女の人にハゲとか」
男ばかりの不快指数1000%のこの現場に、曲がりなりにも女はかずさんしかいない。
今回の俺達の実習を指導する役場職員であり、ここの現場監督だ。
実習初日の昨日は、途中まで男だとばかり思っていたくらい、真っ黒に日焼けした、小柄だが豪快なオバちゃんである。
「広樹、お前それでもミステリ研部員か?
ミステリーの命は意外な発見!
いつも周りの出来事にミステリーの匂いを嗅ぎ付けるべく神経を研ぎ澄ませて、じゃのぅ……」
「寄るな暑い!
何が『神経を研ぎ澄ませて』じゃ。お前だって昨日はかずさんのこと男じゃと思うちょったクセに」
「昨日は昨日。今日は新たに生まれ変わっちょるんちゃ、ワシは!」
「けっこうデカいのぅ、五百円玉ぐらいあるで、あのハゲ。
円形脱毛症かのぅ。意外に繊細で気苦労しちょる、とか」
妙に冷静な林のヒソヒソ声に、俺達三人は揃って寝そべったまま、ヘルメットを脱いだかずさんの後ろ頭をガン見した。
汗で貼り付いたベリーショートのタワシ髪の隙間から、
確かに、五百円玉大の頭皮がくっきりと浮き出ている。
――な、な、なんて見事なハゲなんだ!
俺はビビった。
産毛の一本も生えていない。
汗でツヤツヤ光る、目の覚めるような美しい円形は、
――むしろ闇の中で出口を指し示す光のように、厳かでさえあるではないか。
と、その時。
かずさんの右手が後ろ頭に伸び、そのハゲに触れた。
慈しむように、晒された頭皮に触れる、日に焼けた中指。
つる、つる。
きゅっ、きゅっ。
音が、聞こえたような錯覚すら覚えて、俺は息を飲んだ。
中指は、愛しげにハゲの縁をなぞり、汗で濡れた中央を円を描くように擦る。
つる、つる。
きゅっ、きゅっ。
な、な、何か色っぽい??
幾度か繰り返して、中指は名残惜しそうにハゲから離れて行った。
俺達は声も出せず、その指とハゲとを見つめていた。
――きゅん。
な、な、何だ今の『きゅん』は!
思わず顔を見合わせた俺達に、
やおら、かずさんが振り返る。
「三人とも大丈夫かいね?
ほい、水分補給しぃさん」
ペットボトルのスポーツドリンクが放られ、
俺達は慌てて起き上がり、あたふたとそれを受け止めた。
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