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「……どうしたん? 気分悪いん?
遠慮せんで自己申告、って最初に言うたよね?」
「い、いや、大丈夫っす!
ヘルメットが蒸れてハゲそうじゃのぅ、って皆で、…うぐっ!」
俺の咄嗟の言い訳に、林が『アホ!』という目をして、俺の脇腹に肘鉄を喰らわせた。
こいつ、文化祭以来、どんどん遠慮がなくなってる気がする。
訝しげに俺達を見回す、かずさん。
「ふーん? まああとひと踏ん張りじゃけぇ、頑張りぃ!
……ふふ、こねぇなしんどい仕事させられるとは思わんかったじゃろ?」
「はあ。てっきり役場の冷房ん中で快適に……いでっ!」
遠慮もなく真顔で答える隆の頭に、今度は俺が張り手を喰らわす。
「ははは! 仲ええねぇ」
「「「いや、全然!」」」
「はは、そう?
まあ楽に見えるぃね、役場っちゅーのは。
でも個人情報が飛び交っちょるけぇ、部外者には滅多やたらに内部を見せられんのんよ。
じゃけぇ、職業体験の受け入れ部署は意外に少のうてね。
図書館、保育所、ゴミ収集、と、ウチくらいかねぇ。
ま、一番しんどいトコ当たったね、ご愁傷さん!」
カラカラと笑うかずさん。
何だか、昨日から見て来た彼女と違って見えるのは、俺の気の迷いだろうか。
髪は女の命、とか言うのに、あんなに短く刈り上げて、
男に混じって男社会で働いて、現場監督にまでなって。
挙げ句あんな大きな円形脱毛症まで作って。
意外に意外に見かけによらず、たおやかな女性なんじゃなかろうか。
母親より歳上のオバちゃんではあるけど、さ。
「あの、女の人にはしんどうないですか、この仕事」
林が遠慮がちに訊いた。
おお林、お前はそういう優しいヤツだよ、
俺が訊けないでいることを、角を立てずに素直に口にできるのはお前だけだ。
かずさんは笑って答えた。
「もしかして心配してくれちょるの?
ありがとね。でも正直、アンタ達よりはマシじゃろう。炎天下には強いよ、私は。
女のほうが持久力もあるしねぇ」
そりゃ、ごもっとも。
見てれば解る。バテバテなのは俺達のほうで、
かずさんは汗だくになりながらも、表情はいつも涼しげだ。
「精神的には?
そんな大きな円形脱毛し…」
「わぁっ、隆ボケッ!!」
このデリカシー欠如野郎!!
慌てて隆を羽交い締めしたのは俺、
開きかけた隆の口を塞いだのが林。
おお、なんてバッチリ連携プレー!
が、時すでに遅し。
「なんで知っちょるん、私のハゲ」
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