七つ緒

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 ああ、外食なんて問題外。内に広がるは、辛さに出会い一人が肩車した幸せだ。とにかく、スーパーのひき肉でも色とりどりの滑稽な味を楽しめる、という話だった。  体がそう思っても、頭はまだまだ通史を追っている。  長男坊の父は家業を継ぐなど仰々しい、といわんばかりに高校を卒業するなり札幌で就職した。で、母――さくらと結婚して、千秋が生まれてから四半世紀とちょっとほど経つ。  その間に、ばあちゃんは急性の心筋梗塞でお亡くなりとなった。赤字続きの会社も負債を清算し、名前だけがなぜか仁の店へ継がれている。小中高の悪友という理由だけで、「稲苗商店」の看板を渡す行いを周りが反対しなかったのが、今も不思議でならない。  とはいえ、死んだばあちゃんに関係があるかは与り知らない。空からすとんと舞い降りて、ばあちゃんが実力行使できるなら見てはみたいけれど。  今頃、旦那様とおしどりごっこをしているんだか。じいちゃんを写真でしか知らない千秋には、もちろん知る由もない。  空き家になった店は倉庫三棟を取り壊し、家と倉庫一棟を物置代わりにしたまま、閑古鳥を住まわせ続けてきた。社内の土地はすでに千秋の父が相続しており、今後は社史もろとも更地にすると、親戚へ膾炙しようとした頃。  折しも、千秋が住む運びになった。余談だが、家族や親戚一同が腰を抜かしたのは記憶に新しい。建て替えてから築四十年の、古家に住む神経を疑ったのやら。今日に至るまで、当然壁紙や床などは張り替えられ、リフォーム済みなのでさして抵抗はなかった。  今使っているテーブルも、実はばあちゃんの仕事机だったりする。そのままじゃ貧相なので、テーブルクロスをかけて食卓の代わりにした。開かない引き出しもあるにはあるが、秘密をこじ開けないほうが薄情者と呼ばれずに済む。 「ごっちっそぉーさぁまぁでぇしぃたぁ」  遅い夕食のせいで体重が三キロ増えたと、誰にも話せないのが救いだ。これから食器を洗い、それから風呂に入って寝るまで一時間はかかるだろうか。  睡魔に誘われ溺れまいと、千秋は流し台の水を全開にするのだった。間違っても泳ぐつもりはない。 「あ」  遅まきながら、風呂を入れ忘れたことに千秋は気付いた。入れてから洗えば、十五分ぐらいは捗ったのに。ああ合掌。  と同時に、時間を稼いでなんとするのやら……とも、疑念の沸き上がる千秋だった。 「ばっちゃん、上がったぞ」
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