置土産 #2

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置土産 #2

 一通り話でもしようと思った矢先、二人があれこれと思い出を語り始めた。こうなれば任せるが吉だ。  その間に、どうしても見つからない物達を見つけ出さねば。あろうことか、少なくとも三十年以上はほったらかしていた。まかり間違っても提灯のせいにはしたくない。  探していない隅っこへ行くと、大がとっくに漁っているではないか。いつの間にそちらへ行ったのだろう。すでに七個ほど、明かり取りの窓辺に置かれていた。 「おう、拭いてくれるか?」  大は振り向かずに聞いた。埋もれたてんとう虫を掘り出すべく、その手を一向に休めない。  バッグからハンカチを取り出し、一つひとつを拭いていく。指の腹に小さな体の肌理を感じ取れる。皆同じようで、体躯の同じものは一つとてない。人の手で作るからこそ、物にも人となりが生まれるのだ。  長いことほったらかしにしてしまい、なんとなくばつが悪い。夢の中で、実や健造から説教されてしまうだろうか。胸がきゅうと疼くも、甲斐甲斐しい大を見れば笑われているようにも思えた。 「もういいよ。すぐにお墓参り行くんだし」  せわしない大へ声をかけると、ぴたりと働く手を休めてくれた。額の汗を拭きながら、こちらへくるりと振り向く。 「あら、ちぃの兄ちゃんいねえな」 「え?」  大に言われ、とっさに誰彼を数えてみる。話に花咲く醍醐と仁、意気の上がる忠吉と正吾、笑い合う賀保と栄、大勢の皆。どう数えても、全部で十九人しかいないのは間違いないようだ。 「ん?」 「どうしたの、大?」 「外だな」  大がやにわに外へと駆け出していく。要領を得ないまま後をついて行く。幸い、飛び出した二人に誰とて気付いていない。  倉庫を出るなりすぐに聞こえた。どこかの家からガスが漏れていると紛うだろうが、違う。千秋は草むらの中にいた。 「ちょっと、千秋!」  稲枝が大声で呼ぼうとも、千秋は見向きもしない。あたぁ、などとおかしな雄叫びを上げている。  袈裟斬り、居合い、兜割り。時代劇の殺陣を真似て、一心不乱に殺虫剤を振り撒いているではないか。 「これ、悪たれ小僧!」  遠慮というものは千秋よりお構いなしの大だ。利かん坊の腕をぐいと掴み、見事押さえつける。 「な、な、なんなにするんっすか!」 「この馬鹿たれが!」
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