配管工

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〈2〉  はい、そんなわけでわたしは鉄棒地獄、……ええ、そう呼んでいます。その鉄棒地獄を乗り越えました。わたしはしっかりとその板に捕まり、ムカデのような姿勢で方角もわからず這っていきました。随分長い時間でしたが、やがてその暗闇の中に一層暗い箇所があるのを見つけました。ええ、板の光を見て知ったのですが、暗闇にも段階があるんです。勇気をもらって、その一等暗い場所へ急いで向かいますと、淡い場所はただの壁で、漆黒はどうやら壁に空いた横穴のようです。なんだかもうわたしは楽しくなっていましたので、迷わずそこへ這ったまま入っていきました。ちょっと窮屈でしたが、このまま這っていけば通れないこともありません。光っていたのは板なのでその頃にはまた暗闇になり、わたしは絶えず前方を手で確認しながらでしたが、それでも地道に前へ前へと進んでいきました。  それもやはり長い時間だったと思います。不意に空間が開けたような気がして、手を横へ伸ばしても突っかかりはありません。地面もあたりをパタパタ触ったところ、どうやらあります。最後に頭を恐る恐るあげましたが、ぶつからず、こうしてわたしは本当に久し振りに立つことが出来ました。背伸びをするとパキパキとなって、これ以上ない気持ちよさを感じました。本当に嬉しくて、うん、それはもう。飛び跳ねちゃったくらい。  はい、そしてわたしは足元と前方に注意しながら、亀の歩みでそのフロアを進みはじめました。なにも見えはしないのですが、どこかでシャーン、シャーンという音が聞こえてくるんです。道は迷路のようになっていてよくわかりませんでしたが、わたしは壁を見つけ、添うように歩いていきました。迷路はそうすると解けるって言いますよね?  そうして、何度目かの右折や左折を繰り返したあとです。ようやく音の正体が姿を現しました。  それは、なんと説明したらいいのかちょっとわからないんですけど、光の輪のようなものなんです。それが、通路を明るく照らしているんです。その光輪、いえ、そんな言葉が実際にあるのかは知らないですが、はい、天使の輪っかみたいではありますけど、空洞の部分も光そのものです。それは言わばCDの穴のないバージョンなんです。それが目の前を横切っては、また振り子のように戻ってくるんです。ええ、通路を分断するように溝が走っていて、その間をです。
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