押し込み強盗

3/21
前へ
/21ページ
次へ
「いやあ暑いね。お嬢さん、僕にもお茶をくれないかな?」  やせっぽちが気さくに声を掛け、ふとっちょも即座にうんうんと同意した、が、彼女は僕の隣に座って「いや」と言ったぎり、つんと明後日の方を向いてしまった。それにはやせっぽちも、困ったように頭を掻いた。 「参ったな、うん。まあそれはいいやね。ああ、そして君には自己紹介がまだだった。僕達は押し込み強盗だ。まあこれから宜しく頼む」  何をこれから頼まれるのかわかったものではなかったが、僕はとりあえず首肯した。彼女がまた僕の為にどこからか緑茶を持ってきたので、僕はそれをぐいぐいと飲んだ。やせっぽちが膝の上に手を組み、「ではね、早速、本題を」と切り出した。 「と言ってもね、凄く簡単な話だ」とやせっぽちが笑った。「僕達はね、お金が欲しいんだ」 「お金、ですか?」と僕は訊いてみた。やせっぽちがまたもやくつくつと笑った。 「そう、お金だ。なんと言っても、僕達は押し込み強盗だからね。何も持ち帰らない強盗なんて強盗じゃないしさ。そして、僕達は既にリスクを犯している。リターンを欲するのは当然の摂理ではないかね?」  僕が呆然とその話を聞いていると、「ああ」と弁解するようにやせっぽちが言った。 「うん。本当のことを言うとね、君まで巻き込むつもりはなかったんだ。本当は彼女だけで済ますつもりだった。僕達の本当の計画を言えばね、彼女を人質にして、警察から身代金を要求することだったんだ。でも彼女は警察に助けを乞うなんて死んでも嫌だって言うし、こちらも困ってしまってね。そこで僕は代わりに警察へ電話を出来る者を誰でもいいから寄越せと彼女に言った。それで、お鉢が回ってきたのが君って訳なんだよ」 「……そうなの?」と僕は彼女に訊ねてみた。やせっぽちの言うことが本当なら、僕は彼女に騙されてここに来たということになる。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加