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「……ごめんね?」とややあって彼女は謝った。それから僕の腕を強く抱き、目をキラキラと涙に濡らしながら見上げた。その仕草がとても可愛かったので、僕はすぐに許した。やせっぽちが口を挟んだ。この間ふとっちょは一度たりとも喋らなかった。
「まあそういうことだからさ、君もひとつ、人助けだと思って頼むよ。もちろん交渉が上手く行けば君達の安全は保証する。君はただ僕の言うことを警察にありのまま説明すればいいんだ。そうすれば、きっと上手くいくからさ」
僕はそんなに簡単に物事が上手くいくとは思えなかった、が、押し込み強盗が怖かったのも事実だった。僕は彼らの話をしっかりと聞いた後、自分の携帯で警察へと掛けた。
『はい警察です』
「あ、警察ですか? 実はですね……」
僕は彼らから言われたことを一字一句漏らさず、丁寧に説明した。
まず我々の組織は膨大であるということ。だから下手なことは考えない方がよいこと。つきましては国の財産たる淑女を一人預かっていること。貴殿の組織はそれら淑女を遍く救わねばならない組織に相違ないこと。そこで我々はこの淑女と引き換えに金銭の要求を宣言すること。金額はなるだけ多い方がいいこと。でも無理強いはしないこと。時間もなるだけ早い方が嬉しいこと。持ってくるのは××アパートの402号室にしてほしいこと。絶対に張ったらいけないこと。組織はテレビを媒体とした知識を既に得ていること……。
僕がそこまで喋りきると、それまで話を聞いていた警察官が、烈火のごとく怒り出した。
『あのね? 何事かと黙っていれば、ふざけるのも大概にしてくださいよ』
「あ、いえ、別にふざけてる訳じゃ……」
『お宅は知らんかもしれんけどね、我々もそんな暇じゃないの。お宅の好きなテレビを観てご覧なさいよ。事件は毎日のようにいずこかで起こっておるのです。つまりこんな下らないイタズラに付き合ってる暇はないということです。わかりますか?』
僕もそれには猛然と抗議した。
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