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そして彼らは頷いて、もう一度ソファーへと腰を下ろした。存外物わかりがよくて僕は感心した。もっとも多少の苛立ちの残留しない訳はない。やせっぽちが藪から棒に彼女へとふっかけた。
「じゃあ金を出せ。今持っている、あるだけ全部」
彼女はそれに何かを言いかけたが、結局は頷いて言うとおりにした。先程の一件が余程怖かったと見える。彼女はバッグからピンク色の可愛い財布を取り出し、中身を見てぎょっとした。僕も一緒に覗き込み、お腹を抱えて笑った。
「今日下ろすつもりだったの。本当よ?」と彼女は忸怩に頬を染めた。僕はもう一度見、やはり吹き出した。
彼女の財布には、なんと千五百円しか入っていなかったのだ。彼女は財布ごとひっくり返して再度中身を確認した、が、やはり中身は変わらなかった。彼女はおずおずとテーブルに千五百円を置き、流石にそれでは悪いと思ったのだろう、ついで一枚のキャッシュカードを出した。
「これで、一万円下ろしてきてください」と彼女は言った。「それは差し上げます。でもカードは必ずうちまで持ってきてください。暗証番号は……」
そしてやせっぽちは激怒した。もっともそれは、彼女の話を聞いている段階で僕にも予測出来た。怒るに決まっているのだ。
「あのねえ」とやせっぽちが呆れるように言った。一瞬遅れて加わったふとっちょが、何だかよくわからない呻き声をあげた。
「暗証番号なんて、人に教えていいと思ってるの?」とやせっぽちが言った。
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