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「……はい?」
「だーかーらー暗証番号。そんなものを人に教えて、悪用されたらどうすんのって言ってんの。一万円? はあ? じゃあ僕が全部下ろしちゃって、もし帰ってこなかったら、君どうするつもりなの? ねえ君、どうするつもりだったの? ねえねえ」
僕達はやせっぽちを唖然として見上げていた。確かに彼の言っているのは正論と言えた、が、どこか腑に落ちないのも事実だった。弟が、そんな兄の弁舌をうっとりと見つめ、僕はその頬を矢庭にぶちたくなった。しかし僕は余程嫌な顔をしていたのだろう、僕と目のあったやせっぽちが、即座に糾弾の矛先を変えた。彼は優しい声色で彼女にカードを返すと、にやけながら僕へと眇めた。
「まあ、でもいいんじゃないかな。うん、彼女は悪くないかもしれないね。うん、許したよ僕。素直ってのはいいことだからね、確かに。でも、頂けないのは、そういうことを教えられない彼氏だよね。うん、彼氏はそうだ。ろくでもないよ。しようがない人間だ。本当に君ってやつはしょうがない。よく見たら頭の悪そうな顔をしてるし、どうせロクに勉強もしてこなかったんだろう。でもそりゃそうだよね。人前でこんなにもいちゃいちゃ出来るくらいなんだからね」
「そうだ! いちゃいちゃしやがってこのクソバカやろう! 死ね!」とふとっちょも便乗し、僕はもちろん当惑した。
何故なら彼らの考えが悉く間違っていたからだ。そもそも彼女は僕の彼女ではなく、友達の彼女なのだ。だのに彼らは今や世界の真理を全て知っている風の尊大さを自ずから加味し、大威張りになっている。
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