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僕はそんな彼らを見、なんて可哀想な人達なんだろう、と思った。もし神様がいるのなら、彼らこそ真っ先に天国に連れて行くべきなのだ。そして二度と帰ってこなくていい。彼らにはもうそこにしか居場所がないのだから。いつか肩にもたれかかる彼女の髪を撫でながら、僕は救済を祈った。
ところでやせっぽちが手をこちらへと伸ばしていた。
「ん」
「……なんですか、その手は」
「んー、これは連帯責任というやつだ。確かに彼女はいけない、が、それは君にも責任がある。それは言い換えれば彼女がお金を持たないのなら君が代わりに支払わなければいけないということだ。つまりこの手は君の財布を要求する手だ。何か異論はあるかい?」
「そんな、横暴ですよ!」と僕は叫んだ。何度も思うが彼の理屈は悉く間違っているのだ。ただ僕はこういう彼が余りにも不憫だから言わないだけなのだ。
やせっぽちが笑い、手を叩いた。
「ふん、まあそう言うだろうとは思ったよ。いや、さっきはあんなことを言ってしまったが、言い直そう。いや、君は中々見所がある。或いは百年に一度の天才かもしれない。どうだ、君は以前自身でそう思ったことはないか?」
「……えっ! そんな、流石にそこまでは……その……」
僕は頭を掻きながら照れた。何せ僕は人から褒められることに慣れていないので、すぐに照れてしまうのだ。彼女が僕のことを肘で嬉しそうにつっつき、やせっぽちが厳格に頷いた。
「うんうん、いや素晴らしい。謙遜は美徳だよ君。いや、立派だ。親御さんもさぞ立派に違いない。そこでだ、君。実はね、僕が先程財布を見せてくれなんて言ったのもね、実は君の優れたる煌びやかなるそれを一片でも垣間見せてもらいたいからなんだ。ほら、さる偉人もこんなことを言っている。『人の財布を覗くのは、人の心を覗くのと同じだ』ニーチェの言葉だよ? 君くらい天才なら、ああ、そうだ。釈迦に説法となってしまうかもわからないがね」
「あ、それ、どこかで聞いたことあるかも……」と僕は呟いた。そして僕は誤解していた。やせっぽちはいいやつなのだ。そういうことならとすぐに財布を差し出した。
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