第1章

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『Adonis、幸せだよ私』 《僕も幸せだよ。》 彼が担う王国はそう大きい国ではない。 ただ貿易関係などで栄えていて犯罪なども年々増えていった。 私と彼の出会いはただのパーティーで挨拶をした時だった。 自分の家族が嫌になり、周りが嫌になり新しくやり直したいと考えて私は海外へ飛び立つことを決めた。 そこで出会った国が、彼の国。 その国がまた不思議で地図にも乗っていなく、情報によると発見もされていない国らしい。 そもそも、この国は海の底にあるから周りには見えない、らしい(彼いわく) とてもはちゃめちゃな国だ。 知らず知らずのうちに時間は進み私は彼の側近となりいかなるときも一緒にいるようになった。 それを苦痛と感じることなど一度もなくむしろ幸せしかなかった。 そんなある日、王宮で起こった事件。 Adonisの父が、何者かによって殺されたのだ。 そして次の日は母も。 その連続殺人は二回だけでは止まらなく王宮にいる人の半分は被害にあっていった。 その被害は私にも及び、夜中寝ている時に殺されそうになったのが昨夜の出来事。 そしてその時囁かれた犯人の一言が Adonisは、どこにいる と息を荒立てそう聞かれた。 知らないと答えようとしたとたん部屋のドアが開いてAdonisが助けに入ってきてくれた。 その、事件が起きた次の日の朝、彼が言った言葉。 《柚、僕が君と一緒にいると君までが狙われてしまう》 長い白い髪が私の両頬に触れ、彼の少し冷たい両手が私の肩を優しく包む。 そしてその青い瞳の奥がゆらゆらと揺れ何かに耐えているのが見て取れた。 やだ、行かないで、そう声にだそうとしても喉に何かが詰まっているかのように声が出ない。 ぱくぱくと口が動くだけで何も発せない言葉は空気に溶け物語だけがどんどんと進んでいく。 《お別れだよ、柚。》 そういうと彼は私を抱えて列車の窓を開ける。 《ごめんね、こんな僕で。一国を背負って君を守ることができない僕を、どうか許して》 そう呟き、私はそれに対して反応しようとしても、先程と同じで声は出ない。 そして、窓から投げられる。 走っている列車の窓から投げられた筈なのにいつも痛みは感じない。 ーーー、いつもなら、ここで終わるはずだった。 ここで目が覚めてまたもやもやとした日を過ごすはずだった。 あれ、覚めない…緑の芝生が体を支えどんどんと、離れていく列車を私はただ眺めていた。
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