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黒づくめの格好(かっこう)をしたテルが足元の死体を見おろしていた。神社の展望台からは参道に沿って並ぶ露店の灯(あか)りがきれいだ。テルが敵を殺したのはこれが初めてではないという。いつか自分も人を殺すことがあるのだろうか。それをしてしまえば、もう二度と元の自分には戻れない気がタツオにはした。
けれど進駐官の世界は独特だった。敵である人間を殺して初めて、一人前の進駐官と認められるのだ。それが敵である限り、殺人行為は賞賛され、勇気の証(あかし)として公(おおやけ)に認められる。進駐官のなかには制服に星の刺繍(ししゅう)をいれる者もいた。ひとり殺すたびに、星がひとつ。それが自分自身に贈る勲章なのだ。
テルが死体の横にしゃがみこんでいった。
「さてと、こいつはどんなやつだったんだろうな」
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