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「晴美!」
私は深夜にもかかわらず大声を出しながら晴美の部屋の扉を開けた
晴美は、そこにはいなかった。一切の乱れを見せないその部屋はまさに晴美を象徴していた。争った形跡もなく、ただ最初からいなかったように晴美はそこにはいなかった
私は不安がドッとこみあげてきた。むせ返る夏の暑さとは関係なく流れる汗が床を濡らすほどに溢れた
気づけば私は家を出ていた。行く当てがないわけではないが私は呆然とふらふら歩いた
警察には行きたくなかったのだ。晴美はきっとジュースでも買いに行っているだけだと、私のただの不安症だと
そう思いたかった。だから私は何もせず、晴美を待った。すぐにあの明るい笑顔を振りまいて私のもとに帰ってきてくれる
私はそう信じていた
早朝。鶏よりも早く烏が鳴いた。腕にはめている時計を見ると時刻は6時を回っていた。時計にうっすら映る自分の顔はひどく歪んでいた
結局晴美は家に帰ってこなかった。今までこんなことはなかった。少なくとも連絡もなしで帰ってこないことはなかった
私は霧が晴れた思いで警察へと駆け込んだ。もう頼れるものが警察しかなかったのだ
人間はよりどころを求める生き物だ。私は何かにすがっていないと自分を保てる自信がなかった
思えば結婚して2ヶ月、短い夫婦関係だった。晴美はその日以来妻として私の前に姿を見せることはなかった
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