第1章

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神さまが本当に居るなら残酷だ。 きっと差別が好きな、最低な野郎に違いない。 「四郎…大丈夫か?」 僕は白い部屋にベッドで横たわって居る。腕に繋がれた点滴。廊下では慌ただしく看護士が走り回っている。 隣を見るとモニターが置いてあり、僕の鼓動に合わせて不規則なリズムを奏でている。 大丈夫だよ…いつもの事だし… そう言って兄に笑いかけようとして気づく。 …そうだ。もう声は出ないんだった… 僕の喉から管が伸び、僕の意志とは関係なく、そこから定期的に空気が出し入れされている。 僕の筋肉は、自力で呼吸が出来ない程、弱っていた。 唯一動くのは眼球と、首周りが少しだけ… (ああ…悔しいな…なんで僕の身体は自由に動かないんだろう…) 年をとるとともに、徐々に動かなくなっていく身体。 僕のかかった病気は、治療法の確立されていない筋力が落ちる病気だった。 元々、小さい頃から病気がちで入退院を繰り返していた僕。 そこに追い討ちをかけたように難病になった。   何で僕ばかり、とか、神様は不公平だ…なんて世界の全てを恨んだ事もあった。  ピーーー 少しむせたことで人工呼吸機のアラームが鳴り響く。兄さんが心配そうに顔を覗き込んでいた。 「唾液が貯まってるのかな?看護士さんに吸引を依頼しよう。」 僕の震える手を握り締め兄は、その優しさ笑みで微笑んでくれた。 訳があって僕達には両親が居ない。 僕が苦しい時、いつもそばに居てくれたのは兄だ。 僕は自暴自棄になり「もう死にたい…」と漏らした時、生まれて初めて兄に叩かれた。 その顔は涙が流れていた。無言であったが真剣に僕の事を大事にしてくれているんだと感じた。 だから僕は兄を悲しませない為にも、もう死にたいだなんて言わない。 僕と違い、スポーツ神経は良く勉強だって出来る自慢の兄。 大好きな兄。 だから、もし神様が居て、僕の願いを少しでも届けてくれるなら… そろそろ兄を僕から解放させてあげて欲しいと思います。 そして、これは次いででいいんだけど… 次の人生があるならば、僕に兄に心配かけないような健康な身体にして下さい。
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