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「はい」
玄関で靴が履き終わった時、院長さまが弁当を渡してくれた。
院長さまは今みたいに笑うと目の周りに笑い皺ができる。
「ありがとうございます」
真っすぐ院長さまの顔を見て言う事はやっぱりできなかった。
受け取った弁当を仕事の鞄に入れて、立ち上がる。
「それでは、行って参ります」
院長さまに背を向けて、昨日借りた傘を手にした。
「はい。気を付けていってらっしゃい」
いつも返してくれる台詞を聞きながら、玄関の戸を閉めた。
空にはいつもより少し下に太陽があった。
…もう行きますか。
愛自転車のポチに乗ろうとした時、傘を持つ手が微かに震えているのに、気が付いた。
これはきっと、珍しく早起きをしたせいだ。
さっきから頭の中に微笑む彼女が浮かんでくるのは、昨日会ったせい。
…じゃあ、なんで急いでポチを漕いでいるんだろう?
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