美の慟哭

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 そうして友人はテレビの前でキーを4つ上げ、しかる後に直立不動のまま戦いへ挑む。ちなみにここではかの高名な稲葉氏に挑んでいる格好だ。皆死んじゃえと僕が先程『今からB'zで縛ろうぜ』と追加したのだ。若さとはこのように何とでも戦う気概のことだ。それを知った上で黙殺する大人などはいなかったその上、そうもなりたくはなかった結果が目の前の酒にも単純に伝播した訳だから責任はないと言っているのだ。  誰にしても気怠い。友人の願いが一切届かなかった所為もある。本当は歌っている間にアドバンテージを稼ぎたいが、イニシアチブのコマンドは先程から黒色に塗りつぶされている、が誰かを沈めないことにはこのゲームは永遠に終わらない、一人が潰れれば僕は『まあこうして召されちゃったし』ともう一方へ言うことも出来る、がその実僕達の酒の強さも拮抗している。つまり下手をすると殺すつもりが殺されていたという何を言っているかわからないJean-Pierreになりかねない、というか酒が濃い。俺かお前か大五郎臭しかしない。誰なんだろう、オロCハイなんて頼み続けた馬鹿は。義憤に燃えた。せめてビールを飲みたいがコンビニで買った酒と持ってきたウィスキーはとうに費え、僕達の周りにはオロCの空き瓶が暗室に・墓標のように浮かび上がっている。唯一のアテである唐揚げバスケットは風化の一途を辿り、かと思えばテーブルをひとつ挟んだ彼方の女達が満面の料理を並べながら宮廷様式を模倣し、騒がしいことこの上なく、許さないと思ったらノックされ、明が来たから吹き返した。 「はいオムライス到着! 誰かな?」 「はい!」  このハキハキとした声は正しく僕には相違ないが内容としては嘘だった。たちまちロココの女達が浅ましくも騒ぎ出し、新作の帽子ですよおほほほほと受け取るが許した。くすくすと笑っているからだ。しかし明は可愛い。 「大丈夫?」と下賤なる僕達を早速気遣ってくれる。軽はずみな音符のように近寄ってくる。こういうのもなんだが恐らくは天使だ。 「何が?」と僕は嘯いた。
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