美の慟哭

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「いや、ちょっと濃すぎたかなって。オロC二本ずつ持ってきたかったけど流石にバレちゃうし……」 「ああ、なんだそんなこと? 全然濃くないし、普通だよ、なあ?」  僕は友人に同意を促し、もちろんその性格などは掌握していた。 「……ム、そうだな、むしろ薄いくらいかな?」  可愛い子なら誰にでもええかっこしいなのを熟知していた。 「そっか、よかった。じゃあ次も俺が作れたら濃いの作ってきてあげるよ」 「ああ、ならついでに頼むから作ってきてよ、ほら、今飲んじゃうからさ」  ほら、と言い、僕は一度固唾を飲んでまだ波々と入っていた大五郎を干す。もちろん無理やりだったが、元をたどればどれもこれも隣が薄いなどと滑らせた所為だ。友人もまた負けじとカッコつけたい一心で干し、因みに後輩はというと今も尚優しい先輩の僕の入れてあげた「Real Thing Shakes」を歌いながらギリギリ崖の上をも体現していた。 「うんわかった。じゃあすぐ作ってくるね。えっと、二個でいいのかな?」  明が僕達のジョッキをお盆に乗せる。 「いや、三つだよ」 「ああ、了解。瓶も片付けないでいいの? どんどんたまっちゃってるけど……」 「ああいいんだ、墓標だから」  明はまたも微笑みながら頷き、スタスタと歩いていく。そうして出る途中に後輩からの救難要請・マイクを快く受けてお盆と交換したかと思うと、最後のサビを軽やかな声で歌い、拍手に照れ、その次まで女性陣にせがまれて逃亡した。 「……おい」 「チクるぞ」  僕が友人の彼女を顎で差すと、もちろん友人は怯えてそれ以上何も言わない。戻ってきた後輩が僕達のジョッキのないのを見つけて「げえ」などと漏らし、しかしざまを見るのは何もこの二人に限った話ではない。僕もまた、首を振るほどにキツかった。それどころか「急いで持ってきた」と弾ませつつも差し出されるお手製大五郎は三つ共に満杯だった。どうにも明の健気さの前では氷さえ遠慮がちになるらしく、こうした優しさの前ではオロCなど最早飾りでしかなかった。
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