美の慟哭

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 理不尽だと思った。もちろん彼らは僕の財布の中身など訊きはしなかった。しかし新調仕立ての皮の財布を誉めるのはそれ以上の苦痛には違いない。それどころか彼らは――狙ってなのかはしらないが――必ずそうした場合に、グループ内で一人余った、スーパーラヴァーズ好きのちょっと気弱な女の子を差し向けた。一見僕と変わらない立場のようで、しかし彼女まで同情してはいけない。彼女はフリーではない。仲間内から外れているだけで、彼氏はきちんと他にいた。ただその彼氏は僕達みたいな悪たれとは関わり合いを持ちたくなく、かと言って彼女の友人でもあるこの金髪・厚底・原色ギャル二人に物言う口がない。つまり自分の彼女が素知らぬ後輩の家で寝泊まりをしても、この性格破綻者どもが怖くて何も言えず・彼女も彼女で特に拒否しないからこのような有り様になっているのだ。そうした訳で彼女は周りのカップルの為に始終僕のそばに寄り、次第に精神的慰み者、或いは擬似的恋人の役を買って出てくるようにもなった。実際夜中に入りに行く露天風呂においても――近所に温泉があり、酔っ払ってはしょっちゅう忍び込んでいた――初めから丸出しのギャル達に唆されてタオルの下の聖遺物をさり気なく見せてくれたりもした。  あえて言おう。その頃の僕の頭は如何にこの子を上手く寝取れるかに重点が置かれていた――だってそうじゃないかミサイルマン、真っ当な倫理とやらはいつだって鼻から吹き出す結末を呼び込んだ。そうだ、何もかもがイカレている。もっとも前述の露天風呂はいっそ清々しい馬鹿さ加減があった。僕もまたフェアネスというゲーム感覚に酔い、反応した下腹部を惜しげもなく見せてしまった程だ、が、こうした経緯があるにせよ、素面の時でも生々しいもの――特に下着姿になられるのは滅法につらかった。この妙に大らかなシンボルのダンスとアセティックの共存は致命的な磨耗を加え、脱出口のない完全無比な迷宮へと僕を閉じ込めた。僕は背徳に目を背けながら、また全くのセクシャルな意味で家へ帰ることも出来なかった。その極北と当たるのが夜中、ベッドに浮かび上がる二頭の獣達の姿なのだ。それは次第に隣の布団へも伝播し、四頭となる。そんな無修正のハードコア・ポルノを薄目に焼き付けながら、もう六頭にしちまえばいいじゃないと。彼女は他に寝る場所のない為に僕と同じ布団に入り、僕と同じように覚醒している。
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