美の慟哭

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 そんな時決まって僕は、このままいっそ酒池肉林のスワッピ ングパーティーになっちゃえよと俄然本気で考えるのだった。  しかし彼女は落ちない。彼女はこっそりと忍び寄った僕の動きを感覚でもって見て取ったかと思うと、おもむろに目を開け月明かりに潤ませながら、「駄目、駄目……」と耳元で囁く。そんなつもりはないとの言い訳も聞かず、ほかのことならなんでもするから、とでも言うような口振りで、ね、懇願する。余計に漲るものがある、が、残念ながら僕にもこれ以上に手はない。もっとも拝み倒せば彼女の方を“より下へ拝ませる”など造作もないと断言出来た。彼女には――これは偽りなしに悲しいことだが――確かにそうした風の弱さが明け透けていた。  しかし――しかしこれはやめよう、鬱だから――結論を急げば、僕は結局のところその花を摘まなかった。そもそも僕は摘まないから大の親友にまで摘まれる男なのだ。そうして溜め息をついて朝方眠りにつくのを常習とする頃には、『金を持った人間が皆の生活を請け負う』という不文律もまた日の目を見ていた。弛まない若さと諦念とを内包しながら。  ☆ ☆ ☆   非常に簡単なシステムなのだった。誰かの給料が入る。その日はまず皆を連れて飲みに行く。数日間はファミレスなどを活用する。徐々に金がなくなる。米を買い、後輩の親から送られてくる大量の缶詰をおかずにして食いつなぐ。通夜のような禁酒令に震え上がる。その内に誰かの給料が入る。調子に乗って飲みに行く。なくなっては繰り返し、ただそれだけのことだ。畜生。
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