美の慟哭

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 お陰様で僕はその日、例のワンルームで両切りのバットばかりを煙らせていた。季節は初夏、給料を受け取って三日も経ったある日のことだ。そればかりか僕は日がな一日中例の精神的・慰み者・スーパーラヴァーズと殆ど気が触れたみたいにして綾取りをやっていた。因みにこの子とは日によってお弾きなどもした。僕はお弾きの方がずっと得意だった、が、これに関しては――今考えても――須く謎に包まれている。  とかく夜は更け、いよいよ「今日はどこに行く?」などと周りが宣い出す。  さて、怒るところか? 腹は確かに減ったがこれは違う、まだ財布には給料の三分の一も残っている。問題はここからだ。如何に使った風に見せかけ残すか、それに尽きるのだ。僕は機先を制した。 「今日はカラオケにしよう」 「カラオケ? どこの?」  僕は隣町にあった、朝の五時まで営業しているカラオケ屋を指名した――途端に周りの連中は、ああ、豚以外に形容なし、ブーブーと垂れ、友人が代表して反問する。 「車出さなきゃじゃん」 「ガソリン代、出すよ。五百円分」  考えるまでもなく返した。大体カラオケ代すら僕が出すのに一体何を言うのか。 「ん? それならいい、か?」  友人は案の定易々と我が軍門に下り、早速周りの連中に発破を掛ける。僕はというとその時には箪笥の上から適当にウィスキーの瓶を一本取り、至極当然のように玄関へ向かっている。この五百円は数字よりも遥かに死活問題なのだった、唇にへばりついた最早洋モクだかシケモクだかわからない一本五円五十銭の残りかすよりも現実的に。
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