美の慟哭

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 六人総出で部屋をあとにし、アパートの脇に無断駐車されていた車に乗り込む。銀のボロい軽で、友人はこれを父から貰った。日増しに事故の形跡が増えているが余り気にしてはならない。 「俺、バイクで付きます?」 「いい、いい、乗れ」  後輩の進言をかわし、後部座席の扉を開ける。ちなみに一人は運転手、その彼女が助手席、残りの四人は後部座席にすし詰めになるのだが、これは当然にして圧巻の所業だ。  後輩の方がガタイがいいので、僕がその上に乗る。因みにトランクに幾分のスペースがあるが経験上誰も触れない。男二人なものだから非常に切迫し、何かが尻にも当たっている。隣も同じ体勢だが、女二人は流石に余裕がある。それがちょっと羨ましい。発進すれば運転が荒いので、無表情に始終頭をぶつけている。僕は窓を全開にしてすえた匂いを外へやりながら、何度も彼の卒検へ付き添った日々を考えない訳にはいかなかった。いつものように。  国道に入ってセルフでガソリンを入れ、コンビニへ寄る。時間合わせに各々立ち読みをし――深夜のフリータイムは十一時からだった――男達のビールだの女の子の酎ハイだのチョコだのチョコだのチョコだのを僕が買う。ニキビ出来ろ、肥えろと願いながら二千円くらい払う。そのカラオケ屋は持ち込み禁止だったが、僕達は何気に常連でもあったのでちゃっかり許されていたりする。ところがバッグには隠す。これがマナーだ。  そうして囲まれた深夜のトラックに怯えつつ北進すると、二十分程度で左手に目当てのカラオケ屋が見えてくる。無駄にだだっ広い駐車場に車を止めて転がるように降り、悪心に悩まされながら見上げると、西洋の城を模した外観が一望出来た、がいかんせんちゃちなので城を模したラブホというのがより正確な印象だ。僕達は半開きのガラス扉をぞろぞろと入っていった。  
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