美の慟哭

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「みんなもどうぞー!」仲間にまで要らない愛嬌を振りまいている。僕は階段を上っていく彼女のその尻を前屈みに追いながら、なんとかこの果実を両の親指で割れないものかと考えない訳にはいかなかった。  ――さて、ところで一度ここで切らなければならないような気がする。もっとも僕に弁明するつもりはない。確かに僕はここに金銭問題をも超越する重大な狙いのあったことを告白しなければならない、が、僕の策謀は基本からして――某人斬りの抜刀術宜しく――全て隙を生じぬ二段構えなのだからおおよそ致し方ない。もう一度言うが、僕はここで殊更自身の正当性を主張するつもりはない。しかしあえて付言するならば、僕だっていい加減この溜まりに溜まった毒を発散したかった! 擬似的・精神的では決してなく、肉体的・実感的彼女を僕は得たかった! それが最悪スワップ的要素を孕まなくてもいい、僕はただ何故か枕元に置いてある電動マッサージ器を純然に自身の肩に当て、たちまち“本当の用途”を指摘され身悶えながらも――この無知は今考えてもぞっとする――昔のようにラブホの片隅で愛でも叫びたかった! ただそれだけのことなのだ……。  そうした訳で僕は貪欲に尻を追って二階へ上がった後にも、いみじくも狙って隣へと付く。健康的な馥郁を鼻孔いっぱいに吸い込みながらからかう。気の強い明はたちまち怒髪天をつき、どこか茶道にも精通する滑らかな姿勢でもって説教をする。年齢から言えば彼女は僕よりも五つも年上の酸いも甘いも知り尽くした大人の女性の筈と勝手ながら確信している。しかし明は可愛い。サイドを耳に掛け、小振りな耳朶を丸出しにしているのが特に可愛い。普段のたれ目のつり上がるのはぞうさんよりも好きだ。すぐに話すことがなくなっても――僕は全くの口下手だ。舌が人より短い所為だと考えている――肩を叩いては知らない顔して辺りを見渡す。明もまた憤懣やるかたなしといった体と忸怩とをない交ぜにしながら叩こうとする、が一切僕の頭には届かない。どれもこれも明が小さいからだ。彼女の身長は百五十にすら一向に足りていない様相なのだった、全くの大人の女でありながらも。
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