『 雨 』

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   「――あ、降ってきちゃった  かぁ」   ギターケースを背負い直し  た時、ポタリと一滴の雨粒が  ケースに当たって音をたてた。  「お疲れ」  「シュリ、また飲みに行くの  か?」  「んー……またネェ」   ピンク頭の友人は近頃元気  がない。危なそうな男を連れ  て自宅に押しかけて来たのは、  つい先日のことだった。  「あんまり飲み過ぎるなよー」   何かあったのだろうと尋ね  ても、多くを語ろうとしない  ので見守るしかない。それが  歯痒く感じていたが、無理や  り聞き出してはいけないと自  分に言い聞かせる。   友人の背中が見えなくなる  まで見送って、さて帰ろうと  歩き出すと、マナーモードに  設定していた携帯が、ジーン  ズのポケットの中で震えた。
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